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【東方SS】『外の世界が滅んだら 2』

2013.06.25UP
『外の世界が滅んだら 2』

6月30日『七色魔女の人形舞踏会。』頒布予定!

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 ニトリの工場に妹紅営む運び屋を呼びつけた魔理沙は、車にアリスを押し込めて街の一角を目指す。歩いていけば時間がかかる道のりでも車ならば急がなくとも、十分程で街中へと入った。
 所々ひび割れたコンクリ製の建造物が区画ごとに並んでいる。形がどこか似ているそれが整列している様は不気味で見慣れないなと、アリスは思った。
 魔理沙は相変わらず銃の調子を確認している。アリスは目をつむって座席に深く腰掛け、車の揺れに体を任せた。
 
 あの夜から始まった異変。具体的にどんな異変が起こったのか、あまりの速度にアリス自身まだ整理できていなかった。
 気がつけば本来ならば存在していなかった物で溢れ、幻想郷の姿は大きく変わってしまった。木造家屋は石と鉄の建物に変わり、妖怪の山の河童達が使っていた妙な機械が幻想郷に溢れている。電気や水道といったライフラインも整備され、誰もがいつでも暖をとり暗闇を見る事も無くなっていった。一瞬で進化した環境にアリスは困惑していたが、周囲は真逆で全く感知していない様子だった。魔理沙や霊夢に尋ねても、まるで昔から幻想郷はこうだったという様子で、逆に適応できない自分を不思議に感じているようだった。
 そんな中でも一番の変化は、力が忘れ去られた事だった。今や誰も空を飛べないし、弾幕ごっこをする事も無い。魔理沙は魔法に関して全く言う事はなくなったし、あれだけ幻想郷を満たしていたはずの色濃い力の気配も殆ど感じる事がなくなっていた。
 その代わりに登場したのが、銃という存在だった。力無い者が戦うために開発された武器は、瞬く間に人間の手に渡り、妖精が持ち出し、いつの間にか誰もが所持するようになった。弾幕ごっこは大きく変わり、銃撃戦へと変化していった。
 あの夜感じた違和感。これはただの異変だろうか。一つ仮説を立てるとすれば、おそらく外の世界に何かが起こったのかもしれない。それが一体どのような異変なのか、自分には分からない。なぜ、幻想郷がかわってしまったのか、それ以上になぜ自分だけがそれに取り残されてしまったのか。
 アリスはすぐに魔法を試してみた。人形は従来通り操る事ができるし、魔力を使う事も、空を飛ぶ事もできる。なぜ、自分だけそうなってしまったのか。それも従来通りと感じているのは自分だけで、それすら自分の気がつかないところで知り得ない何かに置き換わってしまっている可能性もある。
 しかし、誰もが魔法等を使わなくなった今、自分がそういう力を使う事はいい事ではないと、そう感じた。思わず相談した霊夢もその方が安全だと言っていたし、何よりも魔法を使わなくなった魔理沙の姿を見る事ができなくて、アリスはできるだけ魔力を使わないように心がけた。
 
 ご機嫌な魔理沙を後部座席から見ながら、アリスは何か問いかけようとするがタイミング悪く魔理沙によって遮られた。
「突っ込んでくれ」
 一瞬何の事かわからなかったのは、後部座席に乗り込んだアリスも運転席の妹紅も同じだった。正面には人影、よく見ると人間よりも幾分か背が低い。あれは、射命丸の言っていたゲリラ化した妖精達のようだった。
 魔理沙の台詞の意味を理解し、ハンドルを握る妹紅が青筋を立てた。
「ふざけんな。運び屋にやらせる事じゃないだろう」
 そう言いながらも、妹紅はアクセルをべた踏みした。セダンが急激に加速すると、その勢いで運転席と助手席の間から顔を出していたアリスが後部へ転がった。
「本気なの?」
「知るかっ」
 どうにでもなれという妹紅の言葉。アリスは冷や汗をかきながら魔理沙へ視線を移す。すぐに戦いが始まる。魔理沙が助手席から無線機一式をアリスに手渡す。イヤホンとストローマイクを装着、無線機本体は腰のベルトに挟み込んだ。
「一八〇度旋回してくれたら、そこが下車地だぜ」
「サイドターンは別料金」
「いいぜ。どうせブン屋のつけだからな」
 こんなに大きく揺れる車内で、魔理沙は新しい銃に弾を装填する。四十四口径HV弾を六発。得たばかりの知識によれば、銃弾には種類があり口径と弾頭の組み合わせだと魔理沙が言っていた。当たれば消滅する妖精相手に内部破壊ダメージを求める必要がない、ならば多少の障害物を撃ち抜けるだけの貫通力という事でHV弾をチョイスしたのだろう。
 ただ魔理沙は一発だけ銃弾を抜き取ると、見覚えのない青い弾頭の銃弾に詰め替えた。
「登場は派手に行かないとな」
 魔理沙がそうつぶやくと同時に、横Gが襲う。妹紅がステアリングをきり、クラッチを解放するとサイドブレーキをめいいっぱい引く。後輪が滑り出し、車体が急激に進行方向を変えた。
 車体後部で吹っ飛ばされた妖精が数体、壁に当たって散霧するのを目で追いかける暇もない。
「アリス!」
 魔理沙の言葉に反応してアリスはドアを開け放った。妹紅が一速でクラッチをつなぎ直すと、車は一瞬速度が落ち逆方向へと加速を始めようとする、その瞬間に二人は車から飛び出した。
 地面に転がってなお勢いを殺しきれないアリスに対して、魔理沙はきれいに衝撃を受け止めると、膝立ちの状態から銃弾を放った。
 銃声は一つ。
 アリスがなんとか壁にぶつかる直前で体勢を戻し視線を巡らすと、顔を上げた丁度先には三体の妖精が転がり、そのまま消滅した。たった一発でなぜというアリスの疑問は、その観察して解決した。妖精が消えた周囲には幾つもの小さな穴が打たれている。おそらく拳銃用の散弾のせいだろう。
「大丈夫か?」
 魔理沙の声に、アリスは振り返った。金色の髪をなびかせた魔理沙が、まだ冷めぬ銃を持ち上げて困った顔をしている。
「問題ないわ」
 ワンピースについたホコリを払いながら立ち上がったアリスは、そう強気に言った。まだまだこの戦闘スタイルに関して初心者のアリスだから、どうしても戦い慣れているらしい魔理沙には劣ってしまう。多少劣る程度ならいいが、それがお荷物になってしまうのであれば、それは問題だ。
 自分に言い聞かせる意味も込めて、無駄に強がってみたりするが、それを見透かした魔理沙はため息をついて続けた。
「大問題だろ。運動神経がよくないのはよくわかるが、ちょっと無防備すぎやしないか」
「仕方ないでしょ。まだ、戦いになれていないのよ」
 魔理沙はわけが分からないといった顔で、アリスの潜む遮蔽物に移動した。
「本当に記憶喪失ってやつは厄介だな」
 魔理沙はそう言って周囲を警戒する。アリスは魔理沙に本当の事を話していない。魔理沙は話を信じてくれるかもしれないが、そうするのはまだ先。異変の仕業と断定し、解決方法が見えてからで十分である。それに、まだ自分一人が狂っている可能性も否定出来ないし、そもそもここが幻想郷の外側の世界でそこに紛れ込んでしまった可能性だってある。都合のいい記憶喪失などとアリスが嘘をついたのは、そういう意図からだった。
「どうでもいいが、銃はどうした」
「どうしたもこうしたも、手ぶらに決まっているでしょ」
 アリスはそう言うと、ニトリから受け取った銃を魔理沙へ突き出した。大型自動拳銃にも見える大きさだが、歴とした小型サブマシンガンMP7である。弾倉を引き抜いて残弾を確認すると、一応二十発しっかりと装填してある。ニトリから受け取ったホルスターには予備の弾倉が二本収められている。
「他に銃は?」
「だから——」
「だから無防備だって言うんだよ。どれだけ外が危険かお前に分からないはずはないんだがな」
「仕方ないでしょ。全く思い出せないんだから」
 そんな事を言われてしまえば、魔理沙に反論の余地はない。
「なら、仕方ないか。銃声に釣られてずいぶん集まってきたぜ」
 魔理沙のひそひそ声の後ろで何者かの足音が響いている。いずれも体重の軽い妖精であろう。魔理沙は正直なところ、戦力としてアリスを見てはいない。
 ならば、少しでも役に立たなければと、アリスはほんの少しだけ魔力を解放した。誰にもばれてはいけないような気がして封印こそしていたが、それでも自分には他にこの世界で使う事のできる能力が無い事を知り、本当に少しだけ魔力を利用する。
 すると、遮蔽物越しの妖精の気配が手に取るように把握する事ができる。皆が力を失ってなお、妖精は妖精の力の雰囲気を持っているし、それ以外の者も変化前の気配を僅かに残していた。
「妖精が十体くらい。正面交差点に展開しているわ」
「相変わらずいい耳だ」
 魔理沙はそうつぶやくように言って、障害物から転がり出た。
 やはり魔理沙には魔力の気配が伝わっていない。アリスは少し悲しくなりながらも、魔理沙の動きを目で追いかけた。
 魔理沙は膝立ちの状態で二発の銃弾を放ち、すぐさま移動しながら射撃する。重量級の銃身が何度も跳ね上がるがそのたびに力で抑えこんではトリガーを引く。魔理沙の正面に踊り出た妖精は二発の銃弾を受け、腕を吹き飛ばしながら消える。
 幻想郷と大きく変わっていながら妖精の存在が今ひとつマッチしていないとアリスは感じた。慌てて背後から魔理沙を追いかけるアリスも、銃を持ち上げる。初弾をチェンバーに叩きこんでセレクターレバーを操作。ハンドグリップを展開して両手で保持後、単射を選びサイトを覗きこむ。建物の影からタイミングを図っていたらしい妖精が銃を構えて踏み出すと、アリスは気配を頼りにトリガーを引く。アリスの銃弾は数発壁にめり込ませながらも、妖精を葬った。
「相変わらず無駄弾は多いが、今日は調子がいいんじゃないか?」
 魔理沙が残り一体の眉間を一発で撃ち抜いてから、そう苦笑いした。アリスは周囲の気配を探る。
「右の通りに十体程度、左は二体よ」
 魔理沙は上機嫌に薬莢を排出、クイックローダーでシリンダーに弾を詰める。ニヤリと笑いながら、魔理沙が右の通りへ消えた。
 アリスは魔理沙に遅れぬよう反対側の通りへ駆ける。建物の角で急停止すると、様子を伺う。
 妖精の気配が近い。アリスの練度では飛び出しながら銃撃することが可能かどうか。魔理沙ならば、照準に二秒、妖精はおそらく三秒程度だろう。アリスは銃撃をイメージして苦笑いした。正確な射撃をするには五秒はかかるだろう。
 伸縮式のストックを伸ばしてアリスが射撃姿勢をとると、魔理沙の方角からものすごい銃撃音が響いた。アリスはそのタイミングで動いた。
 角から道路に向けて転がり出て、親指で連射を選択。勢いにまかせてなぎ払う。
 通路に積んであったダンボールやら古びた看板が銃弾で千切れ狭い通路に舞う。魔理沙の銃声に気を取られていた妖精は振り返るよりも早く、その銃弾を体に浴びた。
 二体まとめて消滅させると、静寂がやってきた。倒したとわかっていても緊張する。警戒したままリリースレバーを操作して新たな弾倉に交換する。
『ソマリアを思い出すぜ』
 魔理沙の声がイヤホンから鳴ると、アリスはホッとした。気がつくと、慣れない戦いにグリップを握る手はすっかり汗ばんでしまっていた。
「そんな記憶は絶対にないわ」
『釣れない奴だな。おい!』
 魔理沙の急に上げた大きな声に、アリスは思わずイヤホンを抑えた。
「どうしたのよ」
『一体隠れてるぞ。そっちへ向かった』
 魔理沙の移動する気配。アリスは驚いて気配を探るが、いつもの妖精達とは少し違う。
 奥の通りで影が動いた。目視で二百五十ヤード、アリスの命中率で厳しい距離だが、それでも撃つ。MP7毎分九百五十発という速度で銃弾を叩きだした。おおよそ一秒間に十五発という銃弾が敵めがけてばら撒かれる。が、偏差攻撃のつもりだったが、敵の背後に次々と銃弾が着弾、あっけなく視界から消えた。
「逃したわ」
 アリスは死角に移動して最後の弾倉に交換。アリスは敏感に敵の気配を察知すると、再び通路に躍り出た。
 敵の距離は百五十ヤードを切っている。アリスは銃を持ち上げ狙いをさだめようとする、その視界に飛翔物を捉えた。思わず凝視して正体を探る。金属製の小瓶のような物、フラッシュグレネードだと気づき、目をそらした瞬間、それは炸裂した。
 一瞬の猛烈な閃光と爆音が襲う。耳のイヤホンが爆音を軽減させるが、閃光を防ぐことはできなかった。真っ白になる視界にアリスは視界を放棄する。気配で敵の動きを探った。
「あたいに敵いっこない!」
 妖精の中でも一際力を持つ、チルノ。アリスの牽制の銃弾も一瞬前に射線からそれたチルノには当たらない。
 微かに回復した、それでもおかしな視界で必死にチルノを捉える。距離六十ヤード程度。トリガーを引くも銃弾を撃ち尽くした銃は何の反応も示さない。
 視界はおかしいが、幻視力を駆使して敵を見る。銃口と目があった。チルノの獲物はM1911A1、有効射程が五十ヤード。確実に当てるならば三十ヤードを狙うだろう。
 残った時間で確実にやり過ごす方法——アリスは咄嗟に魔力を解き放った。
 秒速二百五十メートル以上の銃弾に耐えるだけの結界を構築するため、魔法の糸を放つ。見えざる糸が目の前で絡まり合う。
 結界が完成する直前、想定よりも早い銃声にアリスは目を大きく見開いた。

つづく
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