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【新刊サンプル】『Pの悪魔』

『Pの悪魔』

例大祭で頒布した無配本の修正版Verです。
恋まりにて完成版頒布予定

かわふじ


『Pの悪魔』
噂話の作り方

 現代から忘れ去られたものが流れ着くところ。幻想郷。古の妖怪達がひしめき合う世界の真ん中に、ひっそりと人間が住まう里があった。
 強力な妖怪に守られ、穏やかに人々が暮らすそんな里の一角――市場へ続く比較的人通りの多い道ばたで、二人の少女が会話をしていた。
「最近は怖いくらいに異変が無いわね」
 小さな声だが異変と言う単語に、道行く人間がちらりと視線を送ってくる。そんな事を気にすることもなく、二人の会話は続けられた。
「たまにはいいがな、少し刺激が足りないってもんだ」
「何いってるのよ。異変なんて無い方がいいに決まっているでしょ」
 異変。それは、幻想郷に数多存在する力持つ妖怪達が引き起こす異常な事件の事を指す。妖怪達がいがみ合いながら何とかパワーバランスを保っている幻想郷のその秩序を覆すような動きや、天変地異を引き起こすような妖怪が引き起こす大きな事件。
 これまで人間には直接大きな影響を出すことはないが、それでも幻想郷で草木に次いで弱い立場であろう人間からしてみればとても大きな問題だろう。
 二人の視界の端では少女達の会話を耳にした里の娘達が束になって、二人の会話内容を話していた。
「最近は異変が無いんだって」
「それって、いつ起こってもおかしくないって事だよね?」
「怖いね?」
「でも、妖怪とか巫女とかが何とかしてくれるんでしょ?」
「怖い異変が起こるのはいやだよ」
 そんな里の娘の会話に少しだけ苦笑いを浮かべた二人の少女は、居心地が悪くなったのか、すぐに飛び上がってどこかへ消えていった。
「あの人が言っていたんでしょ?」
「それじゃ、本当に怖い異変が起こるかも知れないね」
「でも、人間は標的にならないんでしょ?」
「次はなるかも知れないよ?」
「妖怪に襲われたら怖いな」
 通りがかる大人達が不思議な顔で振り返るのも他所に、娘達の会話は夕方、日が落ちるまで止めどなく続いていた。
 幻想郷の穏やかな里のある日の出来事であった。

魔女会議

 雨が降っていた。
 ここ最近は雨の日が多い。雨と言っても一日中降っている雨ではなく、春先の雷を運んでくる怪しい雨雲によるものだった。夏の足音が聞こえる程に空気は暖かく、そのためよく雲が育つのだろう。
 幻想郷で最も大きな森である魔法の森の中にぽつりとたっている家がある。霧雨魔理沙の家だ。
 アリス・マーガトロイドは怪しい天気なのにも関わらず、律儀に焼いたばかりの茶菓子を持って魔理沙の家を訪れていた。お茶が飲みたいと言う魔理沙の願いを叶えるために、朝一番から準備をしてやって来たのだ。
 家に着くとお茶を用意し、テーブルに着くとまもなく他愛もないお茶会が始まった。鬱々した天気とは違い、世間話は不思議に盛り上がる。話しているのはほとんど魔理沙の方だったが、魔理沙の噂話が嫌いではないアリスは、魔理沙から得られる幻想郷の情報を興味深そうに相づちを入れながら聴き入って過ごしていた。
「そういえば、知っているか?」
 他愛もない世間話を遮るように、魔理沙は言った。
 とてもわざとらしい言葉だと、アリスは思う。こんな天気にもかかわらず呼び出されたのは、きっとこれから話す事を聞かせたかったからだろうと思って耳を澄ませた。
「里で噂になっている話しなんだがな、里に新しい妖怪が出るらしいんだ」
 魔理沙は好奇心旺盛に目を輝かせてそんな事を言った。
「最近の里っていえば、宝船の下から沸いてきた妖怪かしら?」
「まさか。それはもう正体も能力も知れているだろ」
 魔理沙の言う通り、もし里にいる妖怪が悪さをするのだとすれば顔も能力もすでに人間に知れてしまっている以上、すぐに名前出てくることだろう。それが無いのだとすれば、人間にあまり知られていない妖怪か、新しくやって来た妖怪だろうとアリスは考えた。
「新しい妖怪が現れたとしたら、異変や騒ぎが起きそうなものだけど。里に現れるってだけじゃ今ひとつ異変とも思えないわ」
 アリスが目を細めて言うと、魔理沙は二人きりの自宅なのにも関わらず声を潜めて告げた。
「それがな、人間をおそうらしいんだよ」
 アリスは思わず紅茶が注がれたカップにのばしかけた手を止めた。
 妖怪が人間を襲うのはよくあった。あくまで過去の話であり、今日昨日の事ではない。スペルカードルールが幻想郷で広がった頃、人間を保護するため妖怪の間で無下に人間を襲うことを禁止している。妖怪中心の幻想郷だが、人間がいなくなれば妖怪が生存する事ができなくなってしまうからだ。
 そこまで噂話しに疎くないアリスだが、そんな話しを聞くのは初めてだった。
「それも、人間だけにしか害を及ばさないっていうんだ」
「本当なのかしら?」
「そういう話しだぜ?人間にしか見えないし、人間しか襲わない。妖怪には見えないらしいんだ」
 そんな危ない妖怪がいるのだとすれば、それだけで異変に相当しそうなものである。妖怪退治の専門家である霊夢はしかし、異変解決に乗り出している気配がない。
「とても胡散臭い話しね」
「まだ大きな被害者は出ていないんだがな、里中に嫌がらせみたいな事件は結構おこっているんだ」
「例えは?」
 アリスが聞くと、魔理沙は聞いた話を一気にした。
 風呂を沸かそうとしたら薪がすべて割られる前の状態に戻っていただとか、朝目覚めると原因不明の腹痛に襲われて仕事にでれない、晴れだと思っていた空から雨が降ってきただとか、小銭入れの中身が空になった等という話しだった。運が無いだけのようにも見えるし、単に記憶違いの可能性もある。疫病神などもいる世界だから何とも言い難い被害例だ。
「そう聞こえるがな、里ではもう結構な噂なんだぜ?」
 魔理沙はそこまで言うと、納得したように背伸びをして、まだ熱いであろう紅茶を一気に飲み干した。
「で?」
 アリスはそう言って、紅茶に口をつける。魔理沙がそんな噂話を聞かせる為だけに呼び出すなんてあり得ないことだ。
「アリスならもう分かるだろう」
「あんまり分かりたくはないわ」
「つまりは分かってるって事だな」
 魔理沙は満足げに大きく頷くと、部屋の中を漁って少し形の崩れた帽子を見つけ出して残念そうに形を直す。すぐに出かけるつもりなのだ。
「本当にこれから退治にいくの?」
 アリスは予定外の外出に人形の戦力を見直しながら呟いた。
「そうだぜ。放っておけば人間に危害が及ぶんだろ、退治意外に方法はないだろ?」
 アリスはため息をつくと、お茶セットをバスケットにしまって魔理沙に続いた。やる気を出した魔理沙を止める方法は皆無だ。少しだけかわいそうではあるが、妖怪にはさっさと退治されて貰うしかない。
 八卦炉を握り、ホウキを構えた魔理沙の後に続いてアリスは魔理沙の家を出る。
 家に鍵をかけることもなく、魔理沙はすぐに空へ飛び上がり、アリスもまた人形を携えて後に続いた。


「で、やっぱりまずはここに来るのね」
 アリスは小さくため息をついて周囲を見渡した。
 魔法の森よりも密度が高いのかもしれないそんな空間に二人はやって来た。紅魔館地下のパチュリーの図書館は、どうやって作られたのか分からない地下にできた巨大空間に、本棚が所狭しと並んでいる。
 図書館の主パチュリー・ノーレッジはその蔵書もあり、幻想郷でもかなりの博識だ。八雲紫のような古強者こそないが、その知識量は確かだ。一人で山ほどの本を集めては読み、自分の魔法書を作成しては本棚に差し込んで行く。どれだけの研究がなされたのか、この本棚の数を見ただけで圧倒される。
 アリスは魔理沙と一緒に図書館の真ん中辺りに向かった。
 いつもパチュリーが本を読んでいる辺り。使い古された大きな机には要塞の外壁のように本が堆く積み上げられている。
 決して乱雑な感じがしないところ、常に研究で使う本だけが積まれているのだろう。
「なにしにきたの?」
 いつものセリフにアリスはため息をつき、魔理沙は笑いながら堪えた。
「新しい妖怪が来たって噂があるんだが、何か知らないかと思ってな」
「知らないわ」
 パチュリーは本と作成中の魔法書を交互に睨みながら早口で言った。研究を邪魔するなと言う意味らしい。
 アリスは少しだけパチュリーに同情した。研究の邪魔は好ましくない、それは魔法使い共通の問題だと思う。
「そいつ、どうも人間しか興味が無いみたいでな」
「人間しか襲わない妖怪なんて興味が無いわ」
「何でも目撃証言が無いらしくてな」
「人間にしか見えないのにどうして、私に聞くのかしら」
「しっかり知っているのね」
 アリスの言葉に、パチュリーは少しだけ本から顔を上げてアリスを見た。あの目は余計なことを、とでも言いたいところだろうか。
 諦めたパチュリーが、羽ペンを置いて息を吐いた。
「咲夜が人里に買い物に行ったときに聞いたらしいわ。何でも対処法があるなら教えて欲しいって、頼まれたそうよ」
「紅魔館の使いならば妖怪の一体二体どうにかできそうに見えるわね」
「で、なんて教えてやったんだ?」
 魔理沙がパチュリーの机に身を乗り出した。途端、奇妙なバランスを保っていた本の壁が大きな音を立てて崩れた。
 気まずそうに頭を掻く魔理沙がおかしい。アリスは笑いをこらえて、転がった本を拾い集める。
「研究の邪魔をするつもりならば、教えないわ」
「そんなつもりじゃなかったんだが……」
「教えないと、もっと邪魔されると思うけどね」
 アリスの呟きに、パチュリーはむっとしたように口をつぐむと、すぐに説明を始めた。
「何も対処のしようがないわ。まず相手の姿が見えない事と、人間しか襲われていない事」
「まあ、たしかにな」
「考えられるとすれば、人間しか攻撃ができないような力のない幽霊の類」
 パチュリーはそう言いながら、椅子を回転させて考え込んだ。
「つまり、幽霊への対処方法で太刀打ちできるって事かしら」
「まだ分からない。本当に幽霊ならば、ね」
「どういうことだ?」
 魔理沙がめげずに質問した。
「ここは幻想郷、幽霊はどこにでもいるわ。今更幽霊に驚かされるのもおかしな話しだけれど、もしも幽霊だとすれば『新しい幽霊が出た』と言った話になるはずよ」
 だんだんと説明に熱が入ってきたパチュリーが、指を立てながら解説する。小さな声で、魔法の詠唱のようにどんどんと言葉を紡いだ。
「それが今回は妖怪の仕業になっているわ。実体の伴った、より力ある妖怪の仕業になると言うことは決して幽霊ではないと言うことじゃないかしら」
 最もらしい話しで、アリスは本を拾いながら納得した。魔理沙も納得している様子で、頭を抱えて未知なる妖怪を想像しようとしている。
「わからないな」
「分からないのよ、でもこのままじゃまずいわ。人間がその妖怪を恐れれば、他の妖怪への恐れが減る。それはとても恐ろしい事よ」
「幻想郷のバランスが崩壊するわね」
「どうしたらいいんだよ」
 魔理沙は本棚に寄りかかって本当に参ったように天井を仰いだ。
 正体不明な妖怪、何故人間が標的になっているのか。
「私ならば、絶対に仲間にするわねぇ」
「レミィ?」
 いつの間にか本棚の隙間から小柄な妖怪が現れた。パチュリーの友人にして紅魔館の主、レミリア・スカーレットだった。
「ずいぶん物騒な事を言うんだな」
「あらそうかしら?そしたら、恐怖を紅魔館の者にできるわ」
「相変わらずね」
 レミリアは上機嫌だがとても眠そうに言うと、適当に開いている机を見つけて突っ伏した。少しだけ顔を浮かせて、魔理沙に視線を送る。
「今日は遊んでいかないのかしら?」
「遠慮しておくぜ」
「なんだ、残念」
 パチュリーを見てみるとすでに興味を失ったのか、研究を再開していた。
 居心地の悪くなったアリスは魔理沙に視線を向ける。魔理沙も同様に感じているらしく、アリスに小さく頷いた。
「何か新しいことが分かったら教えてくれよ」
「犯人が見つかったら教えて頂戴。書き足さなくちゃいけないわ」
 二人はそそくさと、本棚を抜けて紅魔館を後にした。


シャドーエネミー

 二人はその後どうするか考えた後、里に向かうよりもまずは情報を集めるべきだと、妖怪の山へ向かった。幻想郷で一番大きな妖怪の山はには、噂好きの天狗や人間の動きに敏感な神様がいる。そこから話しを聞こうということになったのだ。
 このころにはすっかり雨は止んでいて、雨をもたらしていた厚い雲が遠くに移動しているのが見えた。
 頂上を目指しながら天狗を捜していると、すぐに目的の天狗が見つかった。見つかったというよりはあちらから来たというのが正しいかもしれない。
「こんなところでどうしたんですか?」
 人なつっこい天狗、射命丸文が二人に話しかけてくる。
「あなたを捜していたのよ」
「ありゃ。これまたどうして?」
「聞きたいことがあってな。人里の噂話を知らないか?」
 魔理沙が言うと、文は首をかしげて考えるそぶりをした。思い当たる節は無いのだろうか、すぐに思い出すことはないようだ。
「どうも人里で不明な妖怪に人間が悩まされているらしいのよ」
 アリスが内容を説明すると、文は熱心にメモを取りながら頷いた。
「それなら聞いたことがあります。今朝だったか昨日だったか、知り合いの天狗が新聞にしていましたね」
「どんな内容だ?」
「いや、とても嘘くさくて覚えていませんよ。本当に噂になっていたんですね」
 文が頭を書きながら手帳を睨んだ。
「まったく怪しいわよね。本当に妖怪の仕業なのかしら」
「いえいえ、噂になるって事はそうとうですよ?煙の立たないところに何とやらって」
「そう思うだろ」
 魔理沙と文が意気投合しているのを見て、アリスは頭を抱えそうになった。
 どうやら何か起こっているのは間違い無い。不運が蔓延しているだけなのか、新しい妖怪の仕業なのか。気のせいにしては話しが大きくなりすぎている気がする。
「人間にしか実害が無いところが怪しいですね。しかし、これだという被害がない」
「そうなんだよな。やっぱり実害がないと、誰もうごかないか」
「そうかもしれませんね。しかし、実際に事件が起こっていると聞いて黙っていられませんよ?」
 文はそう宣言すると、手帳をしまった。いつの間にか相棒のカラスが肩に止まっている。
「私は少し情報を集めてみましょう。スクープにでもなれば面白いですからね」
「それは助かるな」
「朝刊で解決していることを願うわ」
 アリスに苦笑を返した文は脇に刺していた団扇でものすごい突風を起こすと、いつの間にかどこかへ消えていた。一瞬のはずの突風が、まだ山の木々をざわざわと鳴らしている。
 魔理沙は文が消えたであろう方角を睨みながらため息をついた。
「気になることでもあったかしら?」
 アリスが問いかけると、魔理沙は帽子を深くかぶり直す。
 それは魔理沙の機嫌が良くないか、何か嫌なことでもあったときのポーズだとアリスは知っている。
「噂話に敏感だと思っていた天狗ですらこんな感じだからな」
「里の噂でしょ?まだ大きな被害が出ていないならば、仕方のないことだと思うけれど」
「被害が出てからじゃ遅いんだよ」
 魔理沙は不機嫌そうに低い声で続けた。
「被害が出てからじゃ遅いこともあるだろ?妖怪のに襲われれば人間に取っては死活問題だからな」
「それはそうよね」
 魔理沙の言葉にアリスは同意するしかない。曖昧な相づちにも関わらず魔理沙はかまわなかった。。
「それが、妖怪にはよく分かっていないんだよ。天狗もあんな調子だしな」
「でも、調べるって言っていたわ」
 アリスが妖怪の肩を持つのが面白くないのか、そんなアリスがやはり人間側でない魔法使いだからか、魔理沙はアリスに鋭い視線を向けた。
「スクープ狙いだからな。それは解決が目的じゃないだろ、面白ければいいんだ。それが、気に入らない」
「そんなに怒る事じゃないわよ。いつもあんな感じなんだから」
「別に、文に怒っているわけじゃないんだがな」
 魔理沙はまた、大きなため息をついた。どうやら、里の人間の噂を信じない妖怪に疑問を持っていると言ったところだろうか。決して妖怪は人間を信じていないわけでは無いだろう。
 おそらく今回の噂の新しい妖怪が現れた、という部分が妖怪からすればよろしくないのだろう。慌てて妖怪を調べるような真似をすれば、あいつは新しい妖怪を恐れている、等という新しい噂を作ることになりかねない。妖怪は妖怪で、勢力のバランスを取るために必死なのだ。
 しかし、人間から見ればそれは面白くない。すぐに調査に乗り出さない辺り、妖怪は人間に興味が無いだろうだとか、妖怪には見えないような恐ろしい妖怪なのだろうだとか、いらぬ噂が飛び交う結果になってしまっている。
 異変と聞けばすぐに幻想郷をひっくり返す霊夢が今回はまだ動いていない。まだ霊夢の元まで噂が伝わっていないのか、それとも静観を決めているのかは分からない。人里から神社までは結経な距離があるし、こんな噂が飛び交っている中で妖怪が頻繁に訪れる神社に近づこうなどと考える人間がいるはずがない。
 アリスは、できるだけ魔理沙を刺激しないようにつとめようと思った。下手に問題がこじれると、大げんかになってしなうような気がして、アリスは慎重に言葉を選んだ。
「とにかく、文からは大きな収穫は無かったわ。これからどうするのかしら?」
「そうだな、ここまで来たんだから神様にでも会っていくか」
 魔理沙の言う神様というのはこの山の神様の事だろう。うまく話しができるのかどうか分からないが、この世界で一番信仰に敏感な神様だ。人間の噂位の情報は入ってきているかも知れない。
 口数の少なくなった魔理沙と一緒に、アリスは人間の噂のことを考えながら山中の神社を目指した。

 妖怪の山の守矢神社には生憎、八坂神奈子しかいなかった。
 人間の里に近い博麗神社よりも大きく荘厳な神社がこんな山の中に立っているのは驚きだ。外の世界からやって来たと言うのもうなずける佇まいをしていた。もっとも里からの距離がある上、妖怪がひしめいている妖怪の山の神社を訪れる人間は本当に少ない。人間の信仰よりも、山の妖怪達の信仰を集めて成り立っているのであろう。
 境内の大きな岩の上であぐらをかいていた神奈子は、二人を見るなり顔をしかめた。
「何のようだ。妖怪と変わった人間か」
「ご挨拶だな。少し聞きたいことがあってな」
 魔理沙の態度に神奈子はさらに機嫌を悪くしたように、あぐらを解いて手にしていた杯の酒を一気に飲み干した。
「聞くだけなら」
「人間の里で噂になっている事があるのよ。知っているかしら?」
「なるほど。本当だったんですね」
 アリスの質問に納得したように神奈子は何度か頷いて、杯に酒をつぎ足した。大きな杯に浪波と酒を注ぐと、納得したように視線を二人にもどした。
「何かしっているのか?」
「噂になっているのは知っています。新しい妖怪が里にいるという話しでしたね」
「そうなんだ。人間だけを襲っているって話しなんだが」
「聞きました。そこで、天狗に調査をお願いしたのですが、全く成果が上がらない」
 神奈子が悩ましげにため息を吐く。天狗は情報収集に長けているが、今回の件に関しては霞をつかむような物なのだろう。
「新しい妖怪の目星は付いたのかしら?」
 アリスの問いに、神奈子は首を左右に振ってから酒をすすった。
「新しい奴に好き放題させていいのか?」
「別に構いませんよ」
 神奈子が意地悪そうに口元を上げた。どうやら、魔理沙が神奈子を使って妖怪を突き止めようとしている事が知れたのだろう。
「どうしてだ?」
「人間がその妖怪を恐れ、その妖怪が我々を恐れればそれで信仰は成り立つからです」
「間接的に、人間の信仰を増やせるってことね?」
「そうです。だから、誰の仕業でもいいんですよ。誰か分かったら懲らしめて信仰させるだけですから」
 神奈子が得意げに信仰論を語っている傍らで、魔理沙はひどく考え事をしていた。何か思い当たる節でもあったのか、それとも新しい妖怪をこの神奈子の使いではないかと考えているのか。
 端から見るアリスには、一体何を魔理沙が考えているのかよく分からない。しかし、魔理沙の表情はあまり良くないことだけは簡単に分かった。このまま、ここにいるのはあまり良くないかも知れない。
「神様らしいわね。妖怪が何者か分かったら教えてあげるわ」
「それは助かりますね。天狗より先に見つけたら是非教えてください」
 神奈子はそう言うと、もう興味なしといった感じで岩の上に腰掛け直して空を仰いだ。
 アリスは考え事をしている魔理沙を引っ張っていく。
「おいおい、どうしたんだ」
「それはこっちの台詞よ。あんな所で考え事をしてもしかたないわ」
「それはそうだがな、やっぱりどうしても気がかりでな」
「妖怪のことでしょ?」
「それもある」
 それもあると言うことは、それ以外もあると言うことか。文の時の件と同様、魔理沙が何かを気にかけているのは分かるが、それが一体何なのか、アリスにはよく分からなかった。何か問題があるならば、一緒に解決すればいい。魔理沙ならば、本来そうするだろう。わざわざ二人で情報集めをしているのにも関わらず、今に限っては魔理沙は何故か一人で考え込んでいる。アリスはそれが納得いかず、考えをまとめられずにいた。
「とにかく次に行こうか」
「次はどうするのかしら?」
「これだけ情報が無いなら里に行ってみようと思うんだ」
 魔理沙は少しだけ声のトーンを落として言った。里に行けば噂を直接聞くことができるだろう。しかし、噂によれば人間を襲う妖怪がいるのだ。まだ直接の被害者が現れていないと言っても、こそくな悪戯を仕掛けてくる妖怪がいる所。人間の魔理沙を連れて行っても大丈夫だろうか。
 本当に妖怪がいるならばだが――アリスはまだ自分の中で完全には妖怪を信じ切れていない。少なくとも目撃証言くらいはないと、本腰を入れて調査する気にはなれなかった。
「直接人間から話しを聞けば、もっといろいろ分かるだろうしな」
「そうかもしれないけど……」
「大丈夫だ。私が聞けば怪しまれずにどんどん話しを聞き出せると思うぜ。なんと言っても人間だからな」
 空元気に魔理沙がそう宣言したものだから、アリスは否定的な言葉を述べることができなかった。
 人間だから心配なのよ、と決して声に出すことなく、アリスは飛び上がった魔理沙に続いて人間の里へと向かった。


 幻想郷において人間の活動範囲はものすごく狭い。ほとんどの人間は里か、その周辺でほとんどの生活を送っている。
 普段ならば、里の中にある市場には活気に満ちているはずなのだが、今日に限っては全くそんな様子は無かった。雨の降る日でもここまで閑散とした様子を見たことは無い。
 尋常ではない様子に、アリスは里の噂がいよいよただならぬ異常を示しているように思えた。噂にあるような小さな嫌がらせの様なものだとは決して人間は考えていないようだと感じ取れる程の緊張感が、誰もいない通りには満ちていた。
「あら、二人で珍しいですね」
 見れば珍しい事に聖白蓮が市場の周りを徘徊していた。彼女は幻想郷に比較的最近やって来たばかりの新しい妖怪だった。
 妖怪と言っても、元々は人間で修行をして妖怪になった人物である。仏教の力らしいが実物はほとんど魔法使いのような物で、魔理沙に少し似ていたりする。そんな事もあってか、本当の魔法使いであるパチュリーやアリスからはあまりいい目で見られていない。
「あなたこそ珍しいですね。いつもは寺で修行しているものだとばかり」
「本当はそうなのですが、少しばかりやっかいな事がありまして」
 妖怪らしくないゆったりとしたしゃべり口調で、本当に困ったように白蓮が言った。
「新しい妖怪が徘徊していると言う噂がありまして、念のため見回っているんですよ」
「人間のためにか?おまえはそう言うタイプだったかな」
「本当は人間の為というよりは、妖怪の為ですよ」
 白蓮が笑いながらそんな事を言うと、魔理沙はむっとした様子で、質問を投げ出した。こんなところで、妖怪と対立するのはごめんだと、慌ててアリスが質問を引き継ぐ。
「妖怪の為?」
 白蓮はゆっくりと頷いた。
「人間に恐れられるのは決して悪いことでは無いですが、それによって今居場所を失うわけにはいきません」
 なるほど、とアリスは納得する。
 里の近くに最近できた寺に住まう妖怪らしい回答だ。元々彼女は人間に長いこと封印されていた事もあり、あまり人間を好いている様には見えない。しかし、わざわざ人間と対立してまで、里に住まおうとは思っていないようだった。
「その噂の妖怪に心辺りはないかしら?」
「うーん」
 白蓮が首をかしげた。
 白蓮の寺には妖怪がよくたむろしている。もしかしたら、新しい妖怪を匿っているのかもしれないと、アリスは少しだけ疑っていた。
 妖怪単体で活動するには幻想郷あ妖怪が多すぎる。すぐに縄張り争いではないが、妖怪同士の対立に発展してもおかしくはないからだ。
 それもなく、誰も正体が分からなずどこにいるのかも分からないとなれば、誰かが匿っている可能性を考えるのは自然だろう。
「どんな妖怪なのかは分かりませんが、新しい噂なら耳にしました」
「どんな噂かしら?」
 アリスは答えながら魔理沙を横目で観察した。
 相変わらず何か考え事をしている様子だが、新しい噂という話題にちらりとこちらを見た。アリスと目が合うと少しだけ気まずそうにして、魔理沙はまた目をそらしてしまった。
 何だろう、とても気まずい。魔理沙に何か悪いことをしたような心辺りもなければ、喧嘩に至るような出来事も無かったはずだ。
 二人の間の気まずさを他所に、白蓮が穏やかな口調でアリスの質問に答えた。
「今朝方、人間が実際に襲われていたみたいなのです」
「本当か?」
 目をそらしていた魔理沙がすぐに食らいついた。
 実際に被害が出た、というのは噂が事件変わったと言っても間違いではないだろう。新しい妖怪の仕業でなくとも、何者かが人間を襲っていると言うだけで十分事件性がある。
 噂に懐疑的だったアリスも白蓮の言葉に耳を澄ました。
「明け方でしたので、目撃した人間はいなかったようです。市場の辺りで倒れているのを見つけられたいで」
「誰にやられたの?」
「それが、噂の妖怪にやられたと……」
 アリスと魔理沙は同時に息をのんだ。
 人間を襲うと言う事実以上に、人間にできるだけ手を出さなという幻想郷の了解があるはだ。それを破って人間に手を出すと言うことは、人間の縄張りに侵攻したい妖怪や、今は人間を遠ざけているが捕食をしたいと考えている妖怪がいつしびれを切らして動き出すか分からない。
「姿や名前は聞いてないのかしら?」
「それが、不思議な事に覚えていないと言うんですよ」
 これには魔理沙も、アリスもがっかりした。襲った後で記憶を消されているのか、それとも本当に正体の分からない妖怪なのか検討がつかない。
「面倒な事になったわね」
「そうですね。だからこうやって見回りをしているんですよ」
「ポーズだけでもってか?」
「そうかもしれませんね。命蓮寺から妖怪を追い出されては困りますからね、無実を示さないといけません」
 少し困ったような微笑みを浮かべて答えた白蓮は、それではと言ってすたすたと里の巡回へと戻って行った。背中を眺めていた二人に気がついたのか、すぐに角を曲がって見えなくなった。
「実際に人が襲われたとなると、これは大事ね」
 アリスは道端に二人きりなのにも関わらず、魔理沙に小声で話しかけた。本当に被害が出ているのかこれまで疑っていたが、実際に被害者が出て妖怪が悪さをしていると言うことがはっきりとした。
「そうだな」
 魔理沙は考え事をしながら上の空で返事をしてくる。妖怪の想像でもしているのだろうか。
「何か思い当たることでもあったかしら?」
「全く」
 魔理沙が素っ気なく返してくる。どうも今日の魔理沙は機嫌が悪い。
「調子が悪いなら今日は休んだ方がいいわ」
「そう言うわけじゃないんだ」
 諦めたように、大きなため息をついて魔理沙は帽子を取った。癖っけの長い金髪がじっとりと水分を吸った風にそよぐ。魔理沙が普段しようしている外の世界の石鹸の香りがした。
「どの妖怪も、全く持って他人事なのが気に入らなくてな」
 少しためらった様に見えた魔理沙は、そんな事を呟くように行った。本当に他人事なのだろうか。いつも妖怪はそれくらいマイペースだったような気がする。決して今始まった事ではないだろう。
 でも魔理沙の怒りの理由は何となく理解する事ができた。妖怪が静観を決め込むことによって人間が被害を被るのが気に入らない。人間と妖怪があくまで対等の関係でないことに対する怒りがあるのだろう。
 しかし、とアリスは思う。妖怪であるアリスが魔理沙に対して一体何ができるというのだろうか。魔理沙の考えを否定したとして、それは妖怪だからと言うことで魔理沙を納得させる事はできないだろう。それでも、アリスは少し考え、口を開いた。
「妖怪だって別に人間を放って置いているわけじゃないわ。白蓮にしても争いごとを避けたいって言ってたじゃない」
「それが妖怪中心だって言うんだろ。あくまで妖怪を守るために面子を保ちたいだけじゃないか」
 魔理沙が苛立たしげにアリスの瞳をまっすぐ見つめながら言った。アリスは見返すつもりだったが、すぐに視線を外してしまった。
 妖怪がすべてそうでは無いと否定死体のは山々だが、すべての妖怪がそうとは限らない。確かに先ほどの白蓮の言葉にしても確かに魔理沙の言う節があるだろう。
 しかし、どんな妖怪も人間無しには生きていく事ができないのは事実だ。人間が恐れてこその妖怪だし、ほとんどの妖怪は人間の想像や願望、恐れから生まれたと言っても差し支えはない。だからこそ、妖怪には人間を不用意に襲ってはいけないと言う取り決めがあるのだ。
 妖怪に人間が襲われている、そんな噂で魔理沙は妖怪不信に陥っているのでは無いだろうか。アリスはどうしたら魔理沙の不信を取り除けるのか頭を抱えた。
 妖怪不信は言ってしまえばアリスへの信頼の欠如にもつながる。それは何故か分からないがとても嫌なのだ。人間と妖怪は距離をおくものであるのは分かっているが、アリスの中で魔理沙を放って置くことはできなかった。何故そうなのか魔法使いだからなのか分からない。
 アリスは頭を振って考えを追いやった。今考えるべき事は魔理沙との関係ではない。魔理沙の不信を取り除くことだ。
「おまえはどうなんだ?」
「私?」
 突然魔理沙に問いかけられてアリスは困惑した。そんなアリスの様子も気にせず魔理沙は続けた。
「おまえはどうして調査しているのかと思ってな」
「私は……」
 どうなんだと聞かれても、何とも返しようがな
い。魔理沙に誘われたから原因を探っている、そんな事しか考えてはいなかった。異変があれば確かに問題だが、それが人間を守る為のものだとは考えられなかった。一つの不思議な出来事として、簡単な異変の一種として対処しようと思っている。
 そんな事を今の魔理沙に告げれば、おそらくさらに機嫌が悪くなるだろう。アリスが必死に言葉を選んでいると、魔理沙は帽子をかぶり直して背中をアリスに向けて歩き出した。
「魔理沙?」
「今日はここまでだ。何か分かったら教えるぜ」
 アリスはそれ以上、声をかけることができなかった。なんて言えば魔理沙が納得するのだろう。魔理沙が人間の立場を妖怪と対等にしたいという気持ちは分からなくはない。だが、幻想郷である以上現在の人間と妖怪の関係は変わりはしないのだ。それこそそんな事になれば、人間が力を持って外の世界と同じようになってしまっては妖怪が滅んでしまい幻想郷の結界が維持できなくなってしまう。
 魔理沙の悩みをどうやって解決すべきか異変以上に大きいであろう悩みに小さくなっていく魔理沙の背中を見送りながら、アリスはこれからどうするか考え、ため息をついた。
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